「家もカネもない男なんて論外よ!今より生活レベルが上がらないなら、一人の方がよっぽどマシね」

「女一人満足に養えない男が婚活するなんてあり得ないわ。この歳で一緒になるっていうのは、女が家事全般と後の介護も引き受けるってこと。せめて経済力がなくっちゃね」

「望むのは、余裕ある暮らしと終の棲家。この歳になれば、相手の人柄やルックスは資産と家族構成次第で応相談だわ」

いずれもシニア世代の婚活・恋活現場で、女性陣から必ず聞かれるナマの声だ。

高齢化率26.7%、平均寿命が男女とも80歳超となった現代では、還暦を過ぎてのパートナー探しも既に珍しいものではなくなった。熟年・超熟年向けの婚活パーティや“出会い”を謳ったサービスは、民間・自治体主催を問わず拡充を続け、この世代に絞った結婚相談所の開設、及び利用者数も増加の一途を辿っている。

中高年専門の結婚情報サービス会社によれば、「2011年の東日本大震災を機に、『やっぱり一人は不安だから』と高年齢層の婚活者が急増した」といい、離婚や死別でパートナーを失った男女の“再チャレンジ”以外にも、「親を介護中の未婚者が、『親が亡くなったらいよいよ一人』を自覚して相手探しを始める例も少なくない」(同前)と明かす。

単発の婚活イベントやパーティでは、「お洒落して出掛ける機会があるだけで若返る」(69歳女性)、「居酒屋程度の出費で、いろんな女性と談笑出来て元気を貰える」(74歳男性)など、日常の“気晴らし”を兼ねたライト感覚の参加者も混じるが、「確実に相手を射止めたい」向きは、大抵が結婚相談所に登録する。双方の希望条件合致の上で相手が紹介されるため、時間やアプローチ上での無駄が少なく、効率が良いからだ。

登録には入会金など最低でも十万円近い費用が生じ、会によっては月会費のほか、相手を引き合わせる度に数千~1万円程度の紹介料や、カップリング成就では10~30万円ほどの成婚料が課せられる。“投資”と“本気度”は相応の比例関係にあって、決して安くはない元手が掛かっている分、特に虎の子を叩いた年配女性においては、「元を取らねば!」と必死にならざるを得ない実情もあるのだ。

ただし、ここで留意すべきは互いの要望の大きな隔たりだ。

ぶっちゃけると、男は女へ「情」と「色」、「身の回りの世話」を、女は男に「カネ」と「家」を求める傾向がことのほか顕著だ。

「割り切った遺産狙いも多いのよ。同世代では年金が月額5万円以下のシングル女性も少なくなくて、『女中になったつもりで相手を探す!』と血眼になっている人もいるほどよ」とは、結婚相談所に入会して半年の68歳バツイチ女性の弁で、「離別よりは、財産や年金も丸々残っている死別の単身男性が狙い目で人気なの。子どもがいないか、疎遠であればより好条件ね」とも付言する。

冒頭の本音トークも含め、彼女らの真意に「えげつない」と面食らったとしても、老年男性の懐具合を探って奔走する高齢女性を、ただ一方的に“悪者”扱いするのは早計だ。無論、触法行為となれば許されるものではないが、彼女たちも残りの人生を賭けて必死なのである。

今ほど女性の進学や社会進出が盛んでなかった時分に生まれ育ち、結婚が“永久就職”と謳われた時代に何の因果か伴侶に恵まれず、あるいは先立たれ、死ぬまで自力で豊かな暮らしを送れる現実にない。

働き口を探そうにも、特殊技能を持たない高齢女性が就ける仕事はごく限られており、甚だ需要に乏しいといった哀しい現実も控える。

前夫から潤沢な慰謝料や遺産、年金を得ている一部の女性や元キャリアウーマンを除けば、さしたる増収の見込みもなく、月額数万円の年金でカツカツの生活に喘いでいたり、子どもの厄介になって肩身の狭い思いをしている単身高齢女性は驚くほど多いのだ。

この先、自分は一人ぼっちでどこに住み、どんな生活を送りながら歳を取って行くのか。体調を崩した時、足腰を痛めた時、傍に誰がいて労わってくれるのか……自身の老いの暮らしに不安を抱え、減る一方の預金残高に心細さを募らせる彼女らにとって、唯一残された起死回生の一手―――それが、一生住める家を持ち、先々の暮らしに不自由ない資金力を持った男のゲットなのである。人生終盤での「一発逆転」が掛かっているだけに、なりふり構っていられないのだ。

対する男性陣とて、要求は無限だ。全員がほぼ例外なしに自分より年若く、少しでも見目形の良い女性を望み、健康で気立てが良く、スキンシップも見込め、一緒にいて楽しく、男を立て、敬い、更には手料理に長け、面倒見が良く、やりくり上手で情に深い相手を……と、望みにはキリがない。

一般に、男性は一人を好むクセに独りに弱い。仕事を退けば関わる人も極端に減って、年を重ねるほど「接する異性はスーパーやコンビニの店員か、看護師だけ」となる単身のシニア男性は想定外に多く、パートナーを欲する声は絶えない。

70歳を目前に初めて婚活を始めた男性は、「ずっと一人で平気だと思っていたけど、仕事を辞めて親も亡くなったら、他愛ない話し相手が傍にいない生活がどれほど辛く寂しいか、日ごと身につまされちゃってね」と、頭を掻いた。

都内でビルのオーナーを営むバツ2の80歳男性は、「この先の医療費を除けば、残りのカネの使い道もない。孫がどれだけ可愛くても、一人の男としての満足とは別問題なんだよ」と吐露し、「歳を取れば、存外のカネなんて大して意味は無くなる。数年前に同期で50代後半の女性と再婚した奴がいてね。俺らから言わせれば、心通うカノジョの存在は何億の資産より価値があるものさ」と苦笑した。

老いて弱り、衰えていく一方の自分を支え、元気と自信を与えてくれる女性が傍にいて欲しい……そんな気持ちが膨れ上がって焦るほどに、優しく手向けられた目の前の笑顔についのぼせて一途にのめり込んでしまいがちだ。

「遊び慣れていない高齢男性ほど純粋。『人生最後の華を咲かせたい』といった願望が強い人ほど、思い込んだら猪突猛進してしまう」と、熟年男女の恋愛トラブルに携わる弁護士は言及するが、映画の中で津川雅彦演じる中瀬耕造が“色ボケ爺”に転じて近所から冷笑される姿は、決して“絵空事”ではないのである。

「爺を騙すのは功徳や」―――作中で、豊川悦司演じる結婚相談所所長・柏木亨が放つ一言だが、同様の言葉は、デート援助や恋活詐欺でシニア男性から金品を“提供”せしめる高齢女性らからも幾度となく聞かれた。いずれも、「色恋のトキメキなんてお店で売ってないでしょ?値段のないものを言い値で買ったと思えば、それでも安い出費じゃないの」などと、自らの“正論”を主張して譲らない。

婚姻まで至らずとも、男性の年金支給日前にだけ現れて食事やブランド品を貢がせたり、口八丁手八丁でカネをせびり取る高齢女性の他、資産家男性と婚姻届を出した途端に豹変し、散財しまくって離別を宣告され、離婚調停までもつれ込んだケースや、男性が事実婚希望で遺産相続が思い通りにならないのを知ると、夜中に家捜しして時価350万円相当の純金の仏像を持ち逃げした女性の実例もある。自分へ盲目的になった男性の愛情と信頼の“証”を逆手に取って暗躍する高齢女性は少なからず跋扈しているのだ。

無論、結婚相談所が表立って“後妻業”を斡旋する実態はないが、それでも、漏れ聞かれるのは、登録した女性たちからのこんな声だ。

「コーディネーターの中には『数年したら(死別でも離婚でも)半分もらえるんだから』と、平気で10歳以上も年上の男性を次々勧めて来る人もいるわ。それで、『少し相手の体調が悪くなったら施設に入れちゃって、後はお金も時間も自由に使えるから上手くやったらいいじゃない』って、あっけらかんと言うのよ」

他方で、女性に対する希望条件が「高望みし過ぎ」と相談員から窘められる男性は非常に多く、また、「カネでしか女を釣れないから」と、資産や生命保険をチラつかせて“上玉”探しに躍起になる70~80代男性も散見される。

映画『後妻業の女』は、こうした熟年男女の欲と本音、下心に潜む弱さを色濃く反映しながら巧みにフィクションを盛り込んだ、“超”上質のエンタテインメント作品に仕上げられた。テンポ良いストーリー展開やこの上なく効果的に使われる音楽センスは、名匠・鶴橋康夫監督ならではで、随所に散りばめられたユーモアには失笑、爆笑のツボが満載だ。

更には“悪人”といえども、どこか憎めず登場人物たちが生き生きとコミカルに交錯する様は、実力派俳優陣ら競演の成せる業といえよう。

それにしても、大竹しのぶ演じる主人公・武内小夜子の、何と魅力的なことか!芳醇な色香を漂わせながら、肉感的にツイストを踊る姿には同性といえどもクラクラせずにはいられなかった。そのルックスも含めて、これほどチャーミングな婚活熟女がもしも実在したならば、映画(原作)以上に「稼ぐ(稼げる)」のは間違いないと、数多の現場を取材して来た者として強く断言したい。

新郷 由起(しんごう・ゆき)
ノンフィクション作家
1967年生まれ。『週刊文春』記者を経て独立。高齢者問題に精通し、高齢者の犯罪や心の闇に迫った『老人たちの裏社会』(宝島社)が話題に。今秋に、老後の幸福格差を問う『老人絶望(仮)』(宝島社)、今冬に、『暴力老人』(朝日新聞出版)を上梓予定。